コーヒー価格の決まり方 〜世界から日本へ〜

2023年がやってきました。

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 

さて、新年一回目の投稿から、どんな話を書こうかな?と考えていたのですが

久しぶりに、ちゃんとしたコーヒーの話を一つ、用意することにしました。

 

●コーヒーの値段って、何?

これを思いついたのも、久しぶりに「パナマ ゲイシャ」が入荷したからです。

コーヒーの読み解き方、覚えていらっしゃるでしょうか?

まだご存知でない方はこちらから→「コーヒー豆の名前を読む午後」

わかりましたか?正解は、

「パナマ共和国で栽培されたゲイシャ種(木の品種名)のコーヒー豆」です。

ゲイシャって、10年ほど前から、よく聞かれるようになった名前ですよね。

日本で名前を大々的に広告したのは、スターバックスコーヒーだった記憶があります。

1杯で数千円する高級コーヒー豆として、一躍有名になりました。

ゲイシャ種というのは、品種の名前なので、もちろんいろいろな国のいろいろな農園で栽培されています。

当店が入荷したのはパナマの「イザベル農園」のゲイシャで、でも実は、世界で最も有名なゲイシャの農園は別にあります。

イザベル農園のゲイシャも大変美味しく、華やかな酸味がまったりと香る、良いコーヒーなのですが、一番有名なのはパナマの「エスメラルダ農園」という農園です。何年か前に、当店でも販売していました。

この、超高級コーヒーの代名詞ともいうべきゲイシャにも、コンテストロットやからめっちゃほんまに凄く高いゲイシャと、めっちゃ高いゲイシャと、普通のやつやから普通に高いゲイシャなど、いろいろな価格があります。

 

「コンテストロット?」「普通?」と、聞きなれない言葉に戸惑う方もいるかと。

実はコーヒーの生豆には「通常商品」や「スペシャリティコーヒー」「コンテストロット」など、さまざまな商品形態があります。

 

「通常商品」というのは、当店で、いわゆる「普通の」と呼ばれるコーヒー豆。

店頭で聞き覚えのあるお客さまもいらっしゃると思うのですが、例えば「『グアテマラ SHB』と『グアテマラ アンティグアSHB』とは、どう違うんですか?」とお尋ねいただくと、まあだいたい、90%くらいの確率で

「『グアテマラ』いうと、まあ、普通のグアテマラですね。グアテマラのコーヒー農園からコーヒー豆を集めてきて、精製してあります。『アンティグア』はさらに、グアテマラのアンティグア地方の農家に絞って、コーヒー豆を集めて精製します。いうたら、おナスと加茂ナスみたいなもんですわ」

と答えると思います。

これに当てはめると、おナスが「通常商品」で加茂ナスが「スペシャリティ」。

 

コーヒーの通常商品は、価格がニューヨークの先物取引相場や為替に影響を受け、連動する形になります。

なので、取引相場が上がると、それに釣られて価格が上昇します。

一方で、スペシャリティコーヒーは、その影響は緩やかです。

独自に付加価値を形成しているので、ダイレクトに影響を受けない形になります。

付加価値を確立しているので、スペシャリティを謳うコーヒー豆には、それぞれ特徴があります。

 

例えば、先の「グアテマラ アンティグア SHB」

アンティグア地方のコーヒー農家さんから出荷される生豆には、長年築いてきた品質への信頼と、それに伴うブランド価値があります。

全日本コーヒー取引公正協議会で特定銘柄としても定められており、この地域以外の農家さんが出荷した豆が「アンティグア」を名乗ることは許されていません。

他にも「タンザニア キリマンジャロ」「コロンビア ナリーニョ」「モカ マタリ」「ジャマイカ ブルーマウンテン」など

地域ブランド、農園ブランドなどで、確立した付加価値があり、それが価格にも付随しています。

 

そして「通常商品」「スペシャリティ」共に、その地域や国ごとに出荷された豆に、さらに「規格(グレード)」が関係してきます。

規格、つまり豆の出来栄え。

規格の名称は国ごとに定めれていて、グアテマラは「標高の高さ」が基準で、高い方が良いとしています。

標高が高いところで採れた豆から「SHB」、次が「HB」

 

標高で決めている国は、他にメキシコやコスタリカなど。

標高の基準や呼び方もさまざまで、例えばメキシコは、標高が高い順に「HG」「PW」と呼びます。

 

コーヒー豆の粒の大きさで決めている国もあります。他にコロンビアやケニアなど。

粒の大きさのことを「スクリーンサイズ」といい、大きいものの方が良いとされています。

例えばコロンビアは、大きいものから順に「スプレモ」「エクセルソ」と呼びます。

 

 

そして、規格が高い方が出来栄えが良いので、価格が高くなります。

 

 

 

 

一方で、コンテストロッドは相場に影響されない、豆そのものにプレミアム価値がついている、すごく値段が高いコーヒーです。

実は世界では、国ごとや、地域ごとにコーヒー豆のコンテストをしてたりします。

鑑定士の人々が飲み比べをし(格好いい言い方をすると、カッピングといいます)、カップ1杯に香るコーヒーの風味を評価します。そこで高い点数を得たり、優勝したりすると、プレミアム価値がついて価格が跳ね上がります。

先ほど言っていた超有名高価格コーヒー「パナマ エスメラルダ ゲイシャ」にもコンテストロットがあります。

これがめっちゃ有名!

それで、すごく値段が高い!

もともと、パナマでゲイシャ種が栽培され始めた始まりは、パナマでコーヒーの病気が流行したときに、それを食い止めるために他の国から譲り受けたことらしいのですが、できたコーヒーの味があまり美味しくなかったので、農家さんがみんな抜いて捨てたそうです。

で、それを根気強く育て続けたのが「エスメラルダ農園」

エスメラルダ農園が、びっくりするほど美味しいゲイシャの育て方を発見して、パナマのコーヒーコンテストに出展。

二位との大差をつけて優勝し、その後何年も続けて一位に君臨したせいで、他農園から「いっつもあんたとこやないか!ずっと出続けられたら、これからもずっとあんたとこになるわ!」とコンテスト出禁を突きつけられたそうです。

 

実力も、そんな物語もあって、エスメラルダ農園のゲイシャは価値爆上がり。

押しも押されもせぬ不動の地位を築きました。

コンテストロッドではない、スペシャリティコーヒーも価格は高く、味も洗練されています。

というのも、現在エスメラルダ農園は独自にプライベートコンテストを実施しているのですが

プライベートコンテストに出展する、90点以上の高得点を出したものは「エスメラルダスペシャル(赤色のラベル)」

コンテスト品に届かないながらも、90未満87点以上のものは「プライベートコレクション(緑色のラベル)」

標高1500メートル以上の区画で栽培されたコーヒーは「ゲイシャ1500(紺色のラベル)」(←これが通常品という扱い)

そして、ゲイシャ種以外の品種(カトゥアイ種を育ててるそうです)を他の3つの色のラベルに分けて販売しています。

 

この「エスメラルダ農園」の活躍により、パナマにおけるゲイシャ種の栽培は、世界から頭ひとつ抜けて洗練されることになります。

さらに、この逸話の影響でゲイシャ種が流行し、今や世界各国で栽培されるようになりました。

ゲイシャ、というだけで高値がつきます。

けれど、風土の関係なのか、やはりパナマで栽培されたゲイシャが「ゲイシャらしい」気がします。

イザベル農園のゲイシャも、そんな「パナマの誇り」を感じる、いいゲイシャです。

 

そんなわけで、コンテストロッドの価格の高さは目を見張るほど。

ブルーマウンテンやハワイコナよりも高価です。

ブルマンやコナは超有名かつ希少種なので、スペシャリティコーヒーの中でも高価格帯なのですが、今はもう、ゲイシャのコンテストロッドの方が、値段が高くなりました。

 

それで、じゃあ値段が高い方が美味しいの?ってよく聞かれます。

うーん……飲む人による……。

 

たとえば、値段が安い理由は、なにも「品質が悪いから」ではないのです。

「安定した生産量」「相場に連動」「美味しいのに、まだまだ日本で知名度がない」など、いろいろな要因があります。

コロンビアやブラジルは、世界上位の生産量を誇るので、その分価格が安定します。

そういう「ずっとちゃんと流通してるコーヒー」を使ってブレンドを作るので、ブレンドコーヒーは味が安定して、価格も抑えることもできます。

ブレンドコーヒーは味がふくよかになります。いろいろな国のコーヒーや、品種を混ぜるので、味が何重にも折り畳まれていき、奥行きがでるんです。

 

 

一方で、コンテストロッドなどは味のてっぺんを目指すので、年によって味が違います。

農家さんたちも、コーヒー豆の品種の持つ特徴を、最大限に引き出そうとしているので、飲む人によっては、好みの傾向によって好き嫌いもあります。

また、不作の年などは、ブランド価値を守るために「良くないものは売らない!」といって、出荷しないこともあります。何年か前にも、不作が原因で、ハワイコナの最上位規格「エクストラファンシー」が日本から姿を消しました。

 

ブレンドコーヒーとストレートコーヒーを比べると、ストレートコーヒーの方が値段が高い。

ストレートコーヒーの中でも、通常品よりスペシャリティの方が、値段が高い。

スペシャリティよりも、コンテストロッドの方が値段が高い。

でもそれは、決して値段に準じて「好み」に沿うことを確約するものじゃないのです。

 

あんまり考えると難しいので、自分の「好き」を信じて飲むのが一番。

でも高いコーヒーってどうして高いのか?を知っていると、晩御飯の時に家族に「へー」って言ってもらえます。

でも私はよく「うるさい、長い」って言われています。

調子にのってブログも長くなっちゃった……。

 

 

好きなものは好き!と胸を張って言える

美味しいもん上手に買ってきたぞ!と大手を振れる

そんな2023年にしていきましょう。